人間、口に合わないものを食べると、口直しってしたくなりますよね〜。

先日読んだ「天子の卵」は、パッとしない女はパッとしないなりになんとか生きていこうじゃないの、と思っている私の気力を奪う危険極まりないストーリーだったため、早急に口直しすべく、宮尾登美子の「きのね」を読みました。

「きのね」は、前にも読んでるんですが、以前読んだ時は、とにかく話の展開が気になって気になって、些事は気にせず読み進んだため、「超泣いた!」ということは覚えているものの、話の内容はサ〜ッパリ覚えていなかったため、割と新鮮なキモチで読めましたわ〜って、どうなの?その読書姿勢。

ま、それはさておき、「きのね」ですよ。
ちなみに、私が持ってるのは朝日文庫の「きのね」でして、このレビューでは写真がないので、新潮文庫版を選びましたが、私的には、朝日文庫の中島千波画の表紙の方が断然好きです。

話は第二次世界大戦前の歌舞伎役者の家に住み込み女中として入る主人公・光乃の一生なんですが、これが泣かす〜!!

まずね、主人公の光乃。
パッとしない女です。でも、よく働きます。
無駄口は叩かず、黙々と。

そして、光乃がいつの間にか憧れる、主家の長男・雪雄ぼっちゃま。
歌舞伎役者の家の長男。当然本人も歌舞伎役者。
水も滴るイイオトコ。でも、病弱。

早い話が、光乃が雪雄とくっつくまでの、パッとしない女のシンデレラストーリーです。
ね?「天子の卵」の口直しにピッタリでしょ?(笑)

でも、シンデレラストーリーとはいえ、そこは宮尾登美子ですから、報われるまでの道のりが半端じゃない。
もうね〜、雪雄ぼっちゃまが、結婚前に元女中を外に囲って子供作ったりするまではまだいいんですが、正式な嫁を迎えて独立する時に、光乃がぼっちゃま付きの女中として、新居に住み込むくだりがなんともいえないわけですよ。

1階の女中部屋で寝ていても、2階の新婚夫婦の様子が気になって、寝るに寝られない。
しかも、2階に掃除に上がると、いつも目に入ってくる、立派な嫁入り道具。
嫁は料亭の一人娘なんで、箪笥には衣装がい〜っぱい入ってて、鏡台なんかもツヤツヤ輝いてるわけですよ。

ああ、同じ女に生まれながら、なんでこんなに違うんだ、と。
自分はどんなに頑張ったって、この人の暮らしの十分の一にも追いつかないね、と半ば諦め、半ば羨望の気持ちを抱く相手は、よりによって、恋い慕う雪雄ぼっちゃまの正式な嫁。

ツライね〜!何がツライって、これほどツライことはないんじゃないですか?
アタシャ、わかるよ〜!!
いや、別に、好きな人の他人との夜の生活を見させられたわけじゃないですけど、気持ちはよ〜〜〜〜〜〜〜〜くわかる。わかる〜〜〜〜!!(←もういいよ)

ダテに、大学4年間、片思いで棒に振ってないよ!
ダテに、何度もデートした人の結婚式に呼ばれて他人行儀な挨拶されてないよ!
ま、そんなパッとしないメモリーはどーでもいいか。

今でこそ、長すぎる片思い=時間の無駄、ということが身に沁みてわかった私ですが、「きのね」の時代は、身分違いの恋なんて、一生心に押し込めてないといけない時代。
ま、「きのね」の場合は、雪雄ぼっちゃまは嫁と折り合いが悪く、結局、離縁しちゃうんで、よかったよかった、って感じなんですが、夜な夜な癇癪を起こすぼっちゃまに怯える嫁を、自分が焚き付けて家出させた挙句、離婚する運びになってしまった
ために、光乃は罪の意識に苛まれちゃったりして・・・。
ここで「バンザ〜イ!嫁のポジションはアタシのもんだぜ!」ってならないのが、美しくない女の悲しい習性なんですよね〜。
これまた、わかる〜!!

しか〜し!第二次大戦が始まり、ぼっちゃまと光乃は八王子に疎開することに。
ここで、とうとう光乃にぼっちゃまの手が付くんですが、大して美人でもない光乃は、一時の気まぐれなんだろう、なんて思いつつ終戦を迎えるわけです。
しかし、終戦後の大貧困時代に、仕事はない上に、光乃の給料を全然払えてないことを気にしたぼっちゃまが、光乃に突然暇を出しちゃうんですよ。
そんな、ご無体な。
結局、行き場のない光乃は散り散りになった兄弟の一人を訪ねて、闇米を貰って戻ってきてしまうんですが、光乃が帰ってくるまで、ずーっと放心して居間に座り込んでいたぼっちゃまは、光乃を見て、涙を流して詫びる訳ですよ。

な、泣かす〜〜〜〜!!
あれ?盛り上がってるの私だけ?
ここで、ぼっちゃまも、光乃の滅私奉公のかけがえのなさを、身に沁みてわかったってことでね。
「よく働く女中、女以下」という意識から、
「いて当然、むしろ、いてくれなきゃ困る」存在に格上げになるわけですよ。

そして、密かに妊娠→一人で出産、なんてことをしながら、2人の子をこしらえて、ぼっちゃまの役者としての人気も出てきた頃に、晴れて結婚。

しかし、いや〜、よかった!めでたしめでたし。
で終わらないのが、宮尾登美子の醍醐味ですよ。
役者として一番油が乗ってきた50代に差し掛かるところで、ぼっちゃまが病魔に倒れ、死んじゃうなんて〜〜〜!!
やっと、夫婦関係が世の中に認められて、これからって時に〜〜〜!!
しかも、死後にぼっちゃまが囲ってた芸者が「形見が欲しい」と人づてに頼んできたりして、まさに、心の地獄。
でも、光乃は黙ってぼっちゃまの着物を分けてあげる。

くぁ〜〜〜!!日本の女の鏡だね!!
アタシにはできないけどね!!

そして、それまで病気一つせず(嘘。一回入院したわ)、耐えに耐えた光乃が、とうとう、病魔に冒され、帰らぬ人に。

遠のく光乃意識の中で、歌舞伎座の「析の音」が響き渡り、舞台の幕が開く。

というところで、終了。

ね?泣かすでしょ?
やっぱり盛り上がってるのって私だけ?
いや〜、面白いですよ。宮尾登美子。
長いし、中身が濃いので、読むの疲れるんですけどね。
山登りも、高い山ほど登り終えた後の充実感が大きいって言うじゃないですか。
ま、山登んないんでわかんないですけど。
この「きのね」も、そんな感じです。

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  • 13年 ずく (6月15日 18:08)

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